movie
share Facebook Twitter
切り拓け、新しい知の地平。
スーパーカミオカンデ建造プロジェクト

宇宙の謎に迫り、人類の知の地平を広げる。
2015年、東京大学宇宙線研究所所長、梶田隆章教授がノーベル物理学賞を受賞。
その偉大な発見を支える研究設備の建造を担っていたのが三井造船です。
第一線の研究を技術の力で支える仕事をレポートします。

1990年、建設委員会が発足
基本構想の段階から三井造船も参加。

「圧力容器」「低温LPG容器」などの設計・製造を得意としていたことからはじまり、高度な研究施設の建造に携わるようになった三井造船。1990年、当時、東京大学宇宙線研究所所長であった戸塚洋二教授を委員長に、第一線の研究者たちからなるニュートリノ検出設備「スーパーカミオカンデ」建設委員会が発足すると、基本構想の段階から三井造船もプロジェクトに参加しました。その設備とは、岐阜県飛騨市にある神岡鉱山の地下1,000メートルに、直径39.3メートル、高さ41.4メートルの巨大なタンクを作り、その内部に約1万1千本の光電子増倍管を取り付け、5万トンもの超純水を満たすという、きわめて複雑な観測装置。前例のない挑戦の始まりとなりました。
プロジェクトに初期から携わっていた小野純二は当時の苦労を語ります。「すごい先生方ですから、想像もつかない素晴らしいアイディアがどんどん出てきます。しかし工学的にどうしても難しいものもあり、一つ一つ検証し、仕様を固めていく過程がとても大変でした。研究設備ですから精度が必要。そしてまた、最新の研究は競争ですから早く作らなきゃいけない。工期を短縮するためにいろんな工法アイディアを出して、特許もとって進めました。」

小野純二 小野純二
エンジニアリング事業本部
第二設計部
設備・機械グループ主管
(取材:2016年)

1995年完成。1996年観測開始。
きわめて順調に見えたスーパーカミオカンデ。しかし…。

様々な工期短縮のための工法を取り入れ、早くも1995年にはニュートリノ検出設備が完成。1996年から観測を開始。すると、1998年にはニュートリノ振動の発見、2001年には太陽ニュートリノ振動の発見と、数々の成果が生まれます。しかし、順調な成果に関係者が胸をなでおろしていたそのとき、スーパーカミオカンデに「爆縮連鎖破壊」という大きな事故が起こりました。タンクの水を交換中に底面の光電子増倍管が破裂し、その衝撃波により、周囲の増倍管約7000本が破裂。観測は中止に追い込まれ、研究者たちとともに、三井造船の技術者たちもその解明にあたりました。
この難題の解明に携わったのがエンジニアリング事業本部の山口為久でした。「水はまだあったので、同じようなフレームをつくり、玉を9個並べて水の中に底まで沈めて、真ん中を強制的に割って、周りが連鎖破壊するかどうかをまず再現実験としてやりました。いろんな計測をして、水中衝撃波の解析と照らし合わせて、こういうことが起きたんだというのを実証しました。その実証結果をもって、対策というステップを踏んでいきました。」

山口為久 山口為久
エンジニアリング事業本部
第二設計部
設備・機械グループ グループ長
(取材:2016年)

「なんとしても1年で復活させる。」
研究者と技術者たちの意地の復旧。

世界が注目する研究を、遅らせるわけにはいかない。信じがたいスピードでの復旧作業が動き出しました。「当時、戸塚先生が『1年で復活させる』とおっしゃったのに合わせて、それぞれのステップが、考えられないようなスピードで、今考えてもよくできたなと思うくらいのことを短期間で行いました。そのときは、三井造船の昭島研究所、玉野研究所、千葉の実験センター、本社のメンバーと、かなりの人員で一気に取り組んだということで、総合力を発揮すればやれるなみたいなのを感じましたね。」研究者と技術者たちの意地でした。なんとわずか1年で復旧、2002年には観測を再開できたのです。


2015年、梶尾隆章教授、ノーベル賞受賞。
人類の知にこれからも貢献する三井造船。

そして2015年。その嬉しいニュースは三井造船にも届きました。東京大学宇宙線研究所所長、梶田隆章教授が、スーパーカミオカンデでの観測結果をもとにした研究「ニュートリノ振動、それによるニュートリノ質量の発見」により、ノーベル物理学賞を受賞。梶田先生と、ひざをつきあわせて検討を重ねた思い出がよみがえりました。
「ちょうどその日、宇宙線研究所に行っていたんです。そうしたら『ノーベル賞を梶田先生がとった』とお聞きして、非常にびっくりしたのと、もう我がことのようにうれしかったです(小野)」。「もう大喜びしましたね。実際に知らせを聞いたときは、本当に興奮しました」(山口)」。
今日も各地の研究施設で、研究者たちの熱い挑戦が続いています。北海道上砂川町にある「無重力実験センター」、東北大学が有するニュートリノ検出設備「カムランド」の建造にも、三井造船は参加しています。最新の研究に共に挑むことで、私たちの技術も進化します。 人類の、かぎりない知の冒険に、これからも貢献していきます。