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2,200トンの巨大エンジン製造

三井E&Sマシナリー 社会インフラ事業部

技術部
工事グループ
片山 顕正さん
(据付工事担当)
技術部
ロボティクスグループ
宇髙 雄亮さん
(オペレーター)
事業開発部
ロボティクスグループ
中村 崇さん

廃炉作業用ロボットを開発せよ

従来比2倍の放射線に耐える
廃炉作業用ロボットを開発せよ!

〝廃炉作業用ロボットを開発せよ

廃炉作業用ロボットを開発せよ

目標は従来比2倍の放射線に耐えること

2018年8月、中村崇はドイツ・マークドルフにいた。高放射線環境下で廃炉作業を担う、遠隔操作ロボット。中村は、2015年からともに開発を続けてきた独ヴェリッシュミラーエンジニアリング社(HWM)のエンジニアたちと、実機製作に向けた最終調整を繰り返していた。

その4カ月前の4月23日、三井E&Sマシナリーでは高耐放射線性廃炉作業用の電動式ロボットの開発を発表していた。福島第一原子力発電所の廃炉作業を対象としたロボット『A1000SL』である。

旧三井造船原子力事業部時代から放射線環境下での作業用ロボットを担当。当初は核燃料サイクルの「バックエンド」と呼ばれる再処理施設向けがメインだったが、東日本大震災以降その流れは大きく変わる。三井E&Sマシナリーは、震災後に発足した国際廃炉研究開発機構(IRID)の技術公募に2014年に参加したのをきっかけに廃炉作業用ロボットの開発を本格化させる。

「しかし、作業プロセスが明確な放射性廃棄物処理と、福島の廃炉作業は似て非なるものです。また、IRIDが目標値とした耐放射線性は、従来比の2倍にあたる集積線量2MGy(メガグレイ)、100倍に当たる線量率10kGy/hという未知のレベルでした」(以降:中村)

仮に人間が浴びれば、わずか7Gyで死に至るというレベル。2MGyはその約30万倍だ。

放射線は分子構造を狂わせ、物質を変質させる。ロボットに使われるケーブルやOリングなども放射線の影響で変質し、やがては機能が失われる。そして、作動できなくなったロボットは廃棄物となる。ゆえに、耐放射線性を高められれば長期間使用でき、作業効率向上、コスト抑制、廃棄物削減に直結する。高耐放射線性廃炉作業用ロボットが果たすものは、日本が、世界が果たすべき責任だ。だが、2MGyというレベルをどうすれば達成できるのか? そもそも、2MGyでロボットがどうなるのかさえもわからない。中村たちの挑戦は、まず越えるべき壁の存在を見極めることから始まった。

A1000SLの主な特徴

A1000SLの主な特徴

途方もない壁を乗り越える方法

ところが、既存ロボットに2MGyを照射する試験で判明したのはケーブル、モータ、ギアユニット、潤滑油など、44ものパーツ類に劣化などの被害がおよぶという現実だった。

「たとえば、ケーブルやOリングは硬化してボロボロに。オイル劣化によりベアリングは錆びついてカリカリと音を立てる、センサは基盤が壊れて機能しなくなるなど、課題だらけだということが判明しました。しかも、目標値は2MGyではなく、それを超えること。大重量にも耐えて作動し続けることです。途方もなく感じられました」

パーツ類の改善には、各メーカーの協力が欠かせない。

「最後まで付き合ってくれるメーカーさんたちがあったからこそ、完成に至ることができた」

そう中村が言うように、実は“放射線”と聞いておよび腰になるメーカーもあった。

「放射線はたしかに危険ですが、放射線を照射されたパーツ自体が放射性物質になるわけではありません。そういった基礎知識から説明する必要もありました」

2015年から検討が始まった評価試験は、その後3年間にわたって積み重ねられていった。

途方もない壁を乗り越える方法

苦しむ闇の先に差し込む1点の光

多くの課題を一つひとつ乗り越える。だが、そうして経験と知識を重ねるほど、その先に現れる壁の巨大さが理解できるようにもなる。

「2MGyは、現状のセンサでは耐えられない。耐放射線性能を高めようとするとロボットは大型化し、ケーブルも太くなってしまう。これ以上はもう無理か……」

廃炉作業用ロボットは7つの軸でアームの手先を自在に動かす構造だが、アームはすべてモータで作動しており、軸の角度(回転位置)はセンサで検知していた。その重要パーツの限界。

「そんなとき、HWM社が基礎研究を始めたばかりの位置センサレス・モータの話を聞いたんです」

あくまで高耐放射線性とは関連なく進められていた基礎研究だったが、中村は反射的に着想を得る。

「もしかしたらセンサ自体をなくせるかもしれない」

その逆転の発想は、開発者の熱意が手繰り寄せた突破口だった。

センサレス化技術による効果

センサレス化技術による効果

成し遂げられる者が持っているものとは

世界初、センサレス制御技術を採用した高耐放射線性廃炉作業用ロボット』は、放射線の影響を受けるセンサを使用せずに特殊な信号を流して軸の角度を認識。構造がシンプル化したことから、ケーブル類も大幅に削減。故障リスクへの強さを生み出すことにもつながった。発表直後から関係機関の高い評価を受け、現在はデモンストレーション施設を玉野に整備中だ。

「私たちが求めていたのは高耐放射線性でしたが、偶然知った別の研究情報がきっかけになりました。運が良かったと思います」

──壁の中に隠れて見えない扉。あるかどうかもわからない扉を見つけ、ブレイクスルーするためのセオリーなどない。しかし、壁を越えたことのある者なら誰もが知っているはずだ。そのために必要なものが、決して運だけではないことを。
※記事の内容は取材当時(2019年1月)のものです。
※敬称略

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