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冷凍運搬船の建造に挑んだ若者たち。

シップ・オブ・ザ・イヤー2018 大型貨物船部門賞受賞

COOL EXPRESS

冷蔵・冷凍食品を荷揚げした後の復路はコンテナ、車両、一般雑貨など多種多様な貨物を積む COOL EXPRESS は、コンテナ603TEU + 100FEU、自動車800台を積載できる能力も有している。

船名: COOL EXPRESS
船種: 冷凍運搬船
建造会社: 四国ドック株式会社
竣工年月日: 2018年10月31日
Lpp×B×D-d: 176.0m×30.7m×15.5m-10.2m
総トン数: 22,452トン
速力: 19.3ノット
主機: MITSUI-MAN B&W 7G60ME-C9.5 18,760kW
貨物艙: 5ホールド、18区画、(容量)88万立方フィート
特徴的な構造・艤装品: 冷凍プラント、SOxスクラバー、N2ジェネレータ−
四国ドック造船工作部艤装課(当時、船装作業区作業長)堀川雅大さん(右)設計統括部設計部艤装グループ(機装設計担当)朝原健太さん(左)

信頼の連鎖。

世界最大級の冷凍運搬船 COOL EXPRESS 建造に挑んだ若者たち。

信頼の連鎖。

冷凍運搬船の建造に挑んだ若者たち。

初めてだからこそ、失敗は許されない

「きれいな船だな」

2018年10月、船台搭載開始から9か月の建造期間を経て完成した世界最大88万CFT型冷凍運搬船(以下:88)「COOL EXPRESS」シリーズ1番船の引渡式を見守る堀川雅大は、心の中でそう呟いていた。

昭和2年創業の四国ドックが建造してきた冷凍運搬船は、2019年2月に引渡しを終えた88の2番船を含めて計74隻。世界のなかでも圧倒的な建造実績を誇り、冷凍運搬船建造ヤードとして揺るぎない地位を築いている。
2013年⼊社の朝原健太は、88では機関室全般の設計を担当した。

「88から初めて搭載されたSOxスクラバーは、陸上のプラントなどでは実績のある大気汚染防止装置ですが、ハイブリッドタイプのスクラバーの船舶への実用搭載は日本で初めての挑戦でした。水を使ってエンジンからの排ガスを洗浄するため、酸化した水による各部の腐食が課題で、すぐに腐食に強い材質としてステンレスが挙がったのですが……」

88が搭載するSOxスクラバーは、海水を利用するオープンループタイプと、船内の貯留水を再利用しながら使うクローズドループタイプの両機能を持つハイブリッド型。構造が複雑で部品数も多く、いかにコストを抑えるかが求められた。

「それまでは疎かった配管などの材質を必死で勉強しました」

高価な素材を使う分、他の部分も含めて購買品や現場工数を少なくするなど、設計には従来にも増して柔軟かつシビアな発想が求められた。

「初めてだからこそ、失敗は許されないんです」

朝原は、〝大変だが誇りを持てる仕事〟と自らを鼓舞した。大きいものを造りたくて就職した四国ドック。88が受賞したシップ・オブ・ザ・イヤー2018「大型貨物船部門賞」の栄冠にも「部門賞だったのが悔しい」と語る。

冷凍運搬船という特殊な船の課題

堀川は、88の建造前の65万CFT型冷凍船(以下:65)から甲板部すべての艤装パートを担う船装作業長を務めていた。実は、彼にとっては「88はすべてが上手くいった船だった」と言う。

「自分にとって88は、集大成のようなもの。実はその前に携わった4隻の65建造での経験が、88を造らせてくれたと思っています」

果物や野菜、魚や肉などを冷蔵・冷凍して運搬する冷凍運搬船の建造は、他の船とは大きく異なる。最低マイナス25℃の冷凍貨物を運ぶためには高度な防熱技術が必要で、木工工事や断熱材となる発泡ウレタンの施工なども伴う。特に施工後に最も気を遣うのが溶接など火気による火災であり、工程管理や防火管理には徹底したマネージメントが要求される。

「作業する者がどれだけ熟知しているかということが大切なんです。艤装は工数さえ掛ければいいというものではなく、一人のベテランの存在が工事の進捗に大きくモノをいうことがあります」

いつか自分も諸先輩方のように

防熱だけではない。生鮮食品の鮮度を保つために窒素混合ガスを船艙に充填することもある冷凍船には厳密な気密性が求められる。小さな穴や各部のズレは命取りになり、経験と勘が伴わなければ、検査において不具合箇所を特定することすらできない。

「自分は入社当時、見よう見まねで学ばせてもらいました。当時の諸先輩はもう退職してしまっていますが、今自分が若い子たちに伝えられるのも、あの経験のおかげです」

とにかく人を育てなければいけない──。堀川が4隻の65建造において重視していたのは、常に先を見据えて判断するための経験を蓄積させること。
その成長が結実したのが88だ。

「職人の顔になってきましたよ。今はもう『これは俺の仕事ですから』と言う子もいるほどです」

そう言って目を細める堀川。

「冷凍運搬船という特殊な船の建造で大切なこととは、安心して任せられる人がいるかどうか。だから、自分も先輩方のような立派な冷凍船技師を目指したい。あの人がいたら安心だと言われるようになりたい」

そして、「まだまだ先輩には勝てませんが」と前置きし、堀川は88を思い浮かべて言った。

「きれいな船です。そして、信頼できる仲間とつくった自慢できる船なんです」

2020年5月、四国ドックは88シリーズの3番船に着工する。

イメージ

※記事の内容は取材当時(2019年10月)のものです。

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