電子制御式ガスインジェクションディーゼルエンジン製造プロジェクト

「どうして、もっと早くやらなかったのか──」

そのときを振り返った大賀は、視線を遠くに移しながら言った。

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2007年入社。以来、舶用エンジンの設計畑を歩んできた大賀は、2013年から本格化した電子制御式ガスインジェクションディーゼルエンジン「ME-GI」の開発初期から携わり、今回のプロジェクトでは、工事全体を俯瞰しながら推進させるプロジェクトマネージャーとしての役割を担っていた。

「ME-GIは、熱効率の高い大型2サイクル低速ディーゼルエンジンですが、重油に加えてLNGも使用できる二元燃料(Dual Fuel)仕様です。C重油と比べてLNGは硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)などの大気汚染物質や温室効果ガスの大幅な排出低減が期待できるなど、新しい環境規制(SOx規制)にも対応可能なクリーンな燃料。当社では、すでに複数の実績を持つ技術で、高い評価をいただいています」

しかし、今回のプロジェクトは、これまでとは少し状況が違った。

「このプロジェクトで製造しているME-GIは、国内の造船会社が建造する自動車船に搭載するものです。実は、ほぼ同じ仕様でライバル社のエンジンを搭載した自動車船の建造も進んでいます。ようするに同じ土俵で戦うライバルがいるわけで、なんとしても結果を残し、評価を得なければならないのです」

連続するトラブル、待ったなしの状況

実績を持つME-GIとはいえ、詳細部分ではさまざまな箇所で新しい挑戦が求められる。

そして2019年9月末、概ねエンジンは組み上がり、次のステップである陸上公試運転に臨もうとしたそのとき、恐れていたトラブルが発生する。

「重油による運転から、次にLNG燃料に切り替えようとするのですが、何度切り替えを行ってもすぐに重油運転に戻ってしまうのです」

状況を調査すると、不具合箇所は比較的早く特定された。LNGの供給をコントロールするウィンドウ弁に不具合があり、ガスが供給されていなかったのだ。

「原因は、ウィンドウ弁とガスコントロールブロックを気密するシーリングの材質が硬すぎて、受け側に傷をつけてしまっていたことでした。そこからガスが漏れて必要な圧力が得られていなかったのです」

ところが、さらにウィンドウ弁に不具合が見つかる。

「ウィンドウ弁は外注品だったのですが、メーカーテストでは合格しているものの、弊社でテストするとなぜか気密が保たれずにガスが漏れてしまったのです」

ウィンドウ弁に問題があることは間違いない。不具合箇所は特定できても、今度はその原因がわからない。メーカーに確認しても確実に直るとは限らないし、新たに作り直すには時間的余裕もない。陸上公試運転の日程は1週間遅れ、工事全体の進捗もこれ以上の遅延は許されないところまで追い込まれていた。

いざというときに頼れる仲間の存在

袋小路に追い詰められ、焦る大賀。

「もう、どうしていいのかわからなくなって上司に相談すると、『みんなを巻き込もう』とアドバイスをいただきました。そして、関連する部署の方々に集まってもらい状況を説明しました。すると誰からともなく『自分たちでやろうよ』と言ってくれたんです」

なんとかしなければいけない。真面目な人間であるほど、責任を自分で背負おうとする。自分だけが大変なわけではないと、多忙な仲間に声をかけることもためらってしまう。

「でも、もっと早く声を上げるべきだったんですね。仲間の技術は信じていました。けれど、それ以前に仲間の気持ちを信頼すべきだったんです」

結局、ウィンドウ弁は、社内各部署の力を借りて研磨や組み直しを施すことで正常な作動を取り戻し、陸上公試運転はギリギリの日程でクリアする。

今、大賀は2020年末に予定されている海上公試運転に向けて準備を進めている。

「今後も何が起こるかはわかりません。今回私は、もしものときにも助けてくれる仲間がいるということを身にしみて学びました。仲間を信じるとは、そういうことなんだと、みんなに教えてもらうことができました」

経験は1本1本束ねられ、太い絆へと変わっていく。

※記事の内容は取材当時（2020年4月）のものです。

ME-GIは、高い信頼性と実績を持つMEエンジンにGI(ガスインジェクション)部品を追加(写真の金色部分)する設計

LNG燃料供給の仕組み