TELESCOPE いろいろなMITSUI E&S GROUPを
覗いてみよう!

船舶の自動運転を実現させるために。
三井E&S造船
設計本部 艦船・特機設計部 特機・水中機器課 村田 航さん(上)と
企画管理本部 事業開発部 自律操船システム事業推進室 部長 三好 晋太郎さん(下)

海の未来。

自律操船システム開発で目指す、新しい海の文化

海の未来。

船舶の自動運転を実現させるために。

技術者を動かした、海事産業の状況

三井造船でシステム操船装置※1やDPS※2の技術開発に携わってきた村田は、今から10年ほど前、試運転で同乗していた船上から、ある光景を目の当たりにする。

「明石海峡でした。直進する我々の船に対して、小さな内航船が近寄ってきたんです。危険を察知した船長が汽笛を鳴らすも反応がなく、無線で呼びかけても変わらない。双眼鏡で確認すると、驚くことに操船者が居眠りしていました。結果、事なきを得たのですが、操船者はかなりの高齢者。日本の内航船の実情を思い知らされた出来事でした」

我々の技術や知見を、何に活かすべきか──。

明石海峡での一件は、村田の想いに火をつける。日本の内航船の操船現場について調査をしてみると、産業物流の屋台骨を支えているにも関わらず高齢化が進み、限られた乗組員で、長時間当直をこなす等、待った無しの厳しい環境がそこにあった。なにか自分にできることはないのか──。

そして2016年、社内のアドバイスを受けた村田は、「自律操船システム(=自律化船)」の提案を国土交通省に持ち込むことになる。同省はその提案を高く評価した。

「日本全体で、JAPANブランドとして取り組まなければいけない問題だと伝えたところ、すぐに内容を詰めて、あらためて提案してほしいと言っていただけました」

村田は、国土交通省の予想以上の反応に喜ぶ一方、事態の急展開に戸惑いを覚えたとも言う。

「技術のことはともかく、制度として実現させるには何をどうすればいいのか......。」

村田は、すぐに社内各部署への応援を要請。翌年、本格的にスタートしたプロジェクトは、産官学から関連組織が多数参画する大規模なものとなっていた。

※1 システム操船装置=舵、プロペラ、スラスタ等の複数のアクチュエータを統合制御するためのシンプルな操船システム
※2 DPS(Dynamic Positioning System)=潮流、風、波等の外力に対して、舵、プロペラ、スラスタ等を用いて、精度良く洋上の定点に船位を自動保持するための操船システム

夢を現実にするための手段

商船大学航海学科出身という経歴を持つ三好は、三井造船昭島研究所でDPSやTSL※3などといったプロジェクトで船の操縦性と制御について研究していた。大学で航海学を学んでいた三好にとって、自律化船の難しさは容易に想像できるものだった。

「船は、人間が多様な情報を判断して動かしています。一口に自律化と言っても、求められる操船技術はシーンによっても異なります。プロジェクトでは、漠然と自律化を目指すのではなく、当面の目標として「有人自律化船」を設定(下図参照)。当社ではDPSという低速で細やかに船を制御するいう低速で細やかに船を制御する技術を持っていたこともあり、それを活かして離着桟させることを目指すことにしました」

三好は、これまで多くのプロジェクトをまとめ上げてきたスキルで、コンセプトワークから社内外関係者の調整役としても精力的に動いた。

「さまざまな人や機関が参画するこのようなプロジェクトで大変なのは、みんながどのように考えているかがわからない中で、それをまとめていくことです。ゴールが何で、今目指すのはどの段階か、そのための必要機能は何か、実現に向けてどんなタスクがあるのか......。当初はプロジェクトの進め方をデザインし、現在はシステムをどう設計するかに頭を巡らせています」

※3 TSL(Techno Super Liner)=旧運輸省が中心となって計画した高速船の総称。三井造船では、実験船「飛翔」を経て、40ノット(時速約70km)での航行を可能にした実用船「スーパーライナー小笠原」を建造した

根底にあるのは同じ想い

現在、村田は制御技術の専門家としてシステムの製品化を担当する。

「私たちが目指している技術は、当社が誇る操船制御システムに自律化ユニットを組み合わせて自律操船を実現するものです。ただし、実は船を制御する以前に必要なのが、どんなときにどう操船するのかという航海の知識。私には、通常の航海中、操船者が何を見て、どう判断しているのか、一般的な操船に関する知見が足りず、文献を読んだり、操船者に話を聞くなど、とにかく知識を深めることが必要でした」

プロジェクトの推進を担う三好は、幅広い知識とバランス感覚を発揮する。

「一つひとつの技術を詰めて成果を出し、発言できる立場を作っておきたい。企画戦略をしっかりと立て、国際規格として採用されるようにしなければなりません。そのためには人も育てながら、チームとしての力を備えたい」

それぞれの立場、それぞれの課題。しかし、二人の言葉の中には、根底に同じモチベーションが存在する。

「海で働く人の負担を減らし、安全を守る技術を実現したい。技術開発を通して、製品を供給するだけでなく文化を創りたい」(村田)

「自分を育ててくれた日本の海事産業に明るい未来をもたらしたい。少しでも恩返ししたい」(三好)

目指す先は、日本の海の未来──。

自動離着桟の技術は、すでに外洋での試験を終え、まもなく実際の岸壁での試験がスタートする。「有人自律化船」の実用化は、いよいよ水平線の先に見えてきた。

[写真説明]三井造船昭島研究所に整備されている検証用シミュレーターは、航行状況を仮想空間に再現して操船可能。
自律操船の状況を再現して確認できるとともに、試験航行で採取したデータから状況を再現して検証するために欠かせない装置だ。

自律化の求められる機能

※記事の内容は取材当時(2020年10月)のものです。

自律化船プロジェクトの枠組み

三井E&S造船株式会社は、公益財団法人日本財団(所在地:東京都港区、会長:笹川陽平)が実施する「無人運航船プロジェクトMEGURU2040では、日本財団の助成を受けて、無人運航船の実証実験を実施する。
「横須賀市猿島での既存小型船の無人運航化技術開発」および「内航コンテナ船とカーフェリーに拠る無人化技術実証実験」の2つのコンソーシアムで、供試船3隻に搭載する自律操船システムを開発して自動航海の実証実験を行い、機能や能力を実証する。

無人運航船プロジェクト
MES-Sが参画するコンソーシアムの体制
MES-Sが参画するコンソーシアムの体制
  • 2500馬力の巨大エンジン製造の現場
  • 受け継がれる“くす玉づくり
  • 市原バイオマス発電所を実現させた男
  • どうやって運ぶ?コンテナ用岸壁クレーン
  • たっぷり楽しい〝おんせん県〟
  • 古くて最新の街、日本橋を歩こう!
  • 廃炉作業用ロボットを開発せよ
  • 瀬戸内の潮風香る玉野を散策
  • 冷凍運搬船の建造に挑んだ若者たち。
  • 巨大海上設備を嵐から守れ!
  • 世界屈指の特殊金属溶接技術
  • 二元燃料エンジン「ME-GI」の製造で学んだこと
  • レーダ探査技術
  • 「ロボット計測ソリューション」の可能性
  • 予知保全を実現するCBM
  • 船舶の自動運転を実現させるために。
  • コンテナ用ヤードクレーン「トランステーナ」嵩上げ工事
  • 造波装置
  • ホームドア設置工事
  • ディーゼルエンジン出荷作業
  • 舶用ディーゼル主機関遠隔操縦装置