2024年5月、当社と米国子会社であるPACECO Corp.は、米国ロサンゼルス港において、世界初となる水素燃料電池(FC)を搭載したラバータイヤ式門型クレーン(RTG)「MITSUI-PACECO H2-ZE TRANSTAINER CRANE(H2-ZE TRANSTAINER)」の商業運転を開始しました。
ロサンゼルスとロングビーチ両港湾局は、2006年に港湾エリアから排出されるディーゼル排気ガスを2030年までにゼロにする「クリーンエア・アクションプラン(CAAP)」を策定。港湾のゼロエミッション(ZE)を達成するという大きな目標に向け、三井E&Sグループはともに挑戦を続けています。


世界に先駆け環境対応を進めてきた三井E&SのRTG

輸出入貨物の99%以上が経由する国際サプライチェーンの重要拠点である港湾では、脱炭素化への対応は環境への考慮だけでなく、競争力のある港湾形成といった側面においても喫緊の課題となっています。
コンテナターミナル内でコンテナの運搬に不可欠なラバータイヤ式門型クレーン(RTG)は、機上に搭載されたディーゼルエンジン発電機から得られる電力を動力源としているため、排気ガスによる大気汚染への対策が求められていました。

三井E&Sでは2000年代から、PM(粒子状物質)やNOx(窒素酸化物)を取り除く除去フィルタの開発をはじめ、2009年には荷役時に発生する回生電力を再利用することで、燃料消費量を低減し、排気ガス排出量を削減するハイブリッド型のRTGCを販売。現在までに国内外の港湾に330機を納入するなど、クリーンな荷役機器を提供するクレーンメーカーのパイオニアとして開発に取り組んできました。

2012年からは、外部から必要な電力を供給する電動RTGの提供も行っている一方で、電動化に不可欠な地上給電設備の整備が困難なターミナルでも、クリーンな荷役機器の利用を可能にするために、水素を燃料とするFCRTGを開発・提供しています。

RTGの環境対応のこれまで

2000年〜

RTG用ディーゼル排気ガスフィルタの開発

2007年

キャパシタハイブリッド初号機納入

2011年

リチウムイオン電池ハイブリッド初号機納入

2019年

ニアゼロエミッション型RTG/ゼロエミッション型RTGの開発着手

2022年

ニアゼロエミッション型RTG初号機納入

2024年

世界で初めてFCを搭載したRTGを商業荷役に投入


世界初のFCパワーパック搭載RTG

排ガスの削減にとどまらず港湾のゼロエミッション化の実現に向け、2021年度からNEDO※の助成を受けた開発事業において、 FCを動力源としたRTGの開発に着手し、2024年から米国ロサンゼルス港で商業荷役を開始。安定した稼働実績を誇っています。

2023年4月、大分工場において従来のディーゼルエンジン発電機を搭載したクレーンと同等の荷役能力が得られる世界初となるFCを搭載した「H2-ZE TRANSTAINER」を開発。従来のハイブリッド型RTGには、ディーゼルエンジンなどで構成される発電機セットとリチウムイオン蓄電池が搭載されています。その発電機セットをFCや水素タンクで構成されるFCパワーパックに置き換え、リチウムイオン蓄電池を大容量化することで、FCパワーパックで発電したエネルギーを全て大容量蓄電池に蓄積し、大容量蓄電池から供給される電力だけで荷役することができます。瞬間的な出力も可能になり、FCで定常運転ができるRTGが実現しました。

※NEDO:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

FCパワーパック搭載のRTG

全体像
FCパワーパック搭載部分

FC パワーパックの外観と機器構成

FCパワーパック外観
FCパワーパックの機器構成

港湾ゼロエミッション化の新たなスタンダードへ

東京港、横浜港、神戸港にて水素を燃料としたRTGへ換装する稼働実証に取り組んでいます。2024年10月には、大井コンテナふ頭においてRTGにFCを実装し、日本初となる水素を燃料としたRTGによる荷役作業を開始しました。稼働中のRTGのディーゼルエンジン発電機をFC発電装置へ換装することで、発電時にCO2を排出しない水素を燃料としながら、換装前と同等の荷役能力を得られるかを検証しています。


日本初となる水素を燃料としたRTGによる荷役作業を開始

三井E&Sは2022年5月より、東京都港湾局、日本郵船株式会社、株式会社ユニエツクスNCT、岩谷産業株式会社と大井コンテナふ頭において稼働中のニアゼロエミッション型RTGのディーゼル発電ユニットをFCパワーパックに換装し、水素を燃料とした荷役作業の実施に向けた取り組みを行ってきました。
2024年10月にFCパワーパックに換装したRTGによる荷役作業を開始し発電時にCO2を排出しない水素を燃料としながら、換装前と同等の荷役能力を実現しています。
本プロジェクトの成果は、荷役機械等の水素利用の普及促進に向けて広く展開され、東京港の脱炭素化に貢献してまいります。

東京港での実証試験に用いられた水素を燃料としたRTG