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執念の市原。
三井E&Sエンジニアリング 環境・エネルギー事業部 営業部副部長
バイオマス発電グループ長 兼・市原バイオマス発電社長
小倉 健彦 さん

〝執念の市原。

3度の逆境を乗り越えて動き始めた、市原バイオマス発電の役割とは?

〝執念の市原。

市原バイオマス発電所を実現させた男

前に進んでも結果にならないジレンマ

「この6年間、全力で走った感がある」

2017年秋、伊藤忠商事と大阪ガス、三井造船(当時)の共同出資によって設立された市原バイオマス発電の社長を務める小倉健彦は、幕張センターの一室でそう語り始めた。

「だって、諦めたのは1回や2回じゃないですからね」

当初の構想では、既に千葉工場内にある市原グリーン電力のバイオマス発電所とほぼ同じ発電プラントを建設するというものだった。

「とはいえ、まだ事業地も決まっていなくて、千葉にするかほかにするかといった状況。ところが、そうこうしている間に共同出資予定企業が先方の都合で降りることになって。それで新たなパートナーを探して走り回るわけですが、なかなか条件が合わずにまとまらない。2年くらいかかったかな。やっと、こことならやっていけるという相手が見つかり、経営会議も通ったのですが、今度は電力固定買取価格制度が変わって経済性がかなり厳しくなり、結局やめることになったんです」

実はこの決定、話がまとまったことに安堵した小倉が、椎間板ヘルニア手術のために1週間、会社を休んでいた間の出来事だった。

「久しぶりに会社に行ったら、上司から告げられまして。どうにかならないかと、出資パートナーの担当の方々と一緒に頭を悩ませたのですが、やはり収益を上げられないというのが結論で、出資パートナーともども泣く泣く諦めざるを得なかった」

市原バイオマス発電株式会社
伊藤忠商事(39%)、大阪ガス(39%)、三井E&Sホールディングス(22%)の共同出資により2017年9月に設立。
三井E&Sが施工および運転・保守、伊藤忠商事が燃料調達(パーム椰子殻・木質ペレット)を担い、
大阪ガスの発電所運営の知見を組み合わせて事業運営を行う。2018年3月、千葉工場内で発電所建設をスタート
■燃料:木質バイオマス(パーム椰子殻・木質ペレット)
■発電出力:約50MW
■操業予定:2020年10月

次々に訪れる「好転」と「逆境」

再生可能エネルギーによる発電事業は、売電価格が20年間固定されているため、市況に左右されにくく、長期的な安定収益を読むことができる。

「2回も破談していますから。もう終わりかなと。ところが、数カ月後に伊藤忠商事さんからお話があったんです。同社は、外国産のパーム椰子殻(PKS)を日本のバイオマス市場に展開したいと考えており、うちも太陽光発電などでもお付き合いがありましたから相手としては申し分ない。それで、もうこれで最後だからと社内の技術陣に頭を下げて、もう一度みんなで動き始めることになりました」

この時期とタイミングをほぼ同じくして、デンマークのグループ会社BWSC(小倉は、この会社に約20年前に半年間ほど出向していた)から高効率の欧州製ボイラーの紹介を受けたこと、そして大阪ガスが事業開発のパートナーとして参画したことにより、伊藤忠商事と再開した事業開発の成立にも光明が差し始める。

また、当社側の大きな課題のひとつであり、プロジェクト・チーム全員が皆頭を悩ませていたO&M(※1オペレーション・メンテナンス)についても、BWSCが自分たちが英国バイオマス案件で培ったノウハウを日本に導入・展開するという、力強い協力を申し出てくれることになり、大きく前進した。

「言葉も文化も違う昔の仲間たちが『俺たちは、お前の味方をするよ。だから諦めるな』と言って、訪問したコペンハーゲンのレストランで力強く励ましてくれたのには本当に感動しました。正に、『遠方よりとも来る』でした。彼らは日本という経験の少ない市場でO&Mを引き受けてくれただけでなく、約90%という日本ではこれまであり得ないほどの高い稼働率保証までしてくれたんです」

BWSCの参画は、ファイナンス面にも大きくプラスに働くことになる。

「伊藤忠商事さんがプロジェクト・ファイナンス(※2)での契約を望まれたため、より厳しい事業採算性の保証が求められたのですが、90%という稼働率保証が決め手になりました。BWSCには感謝しかないですよ」

小倉

「大切にしてきた人間関係が逆境を乗り越える大きな力となった」と振り返る小倉。

目指すゴールの重要性を共有せよ

伊藤忠商事に加え、大阪ガスの参画によって3社体制で概ね固まったプロジェクト。ところが2017年7月15日、三井造船経営陣は出資中止を判断する。当時の経営状態からすればやむを得ないものだった。

「それがちょうど自分の誕生日でねぇ(笑)」

しかし、そこからは執念。市原バイオマス発電は2017年9月13日に設立を発表するが、そこまでの2カ月間、小倉たちは必死になって多方面に掛け合った。

「9月13日は、もう後がないという状況でした。事業化OKの最終決定が降りたときは、泣きたいのに涙も出なくて……。味方が、いい仲間がたくさんいてくれた。励ましてくれたり、知恵をくれたり、伊藤忠商事さんも大阪ガスさんも、本音で物事を言い合えるいい関係を築けていた。うちのスタッフも粘り強く交渉してくれた。そういうみんなのおかげでした」

小倉を、スタッフを、プロジェクトを動かしたのは何だったのか。

「当社では再生可能エネルギーに関する事業を複数手がけていますが、まだまだ事業組成の段階。EPC(※3)も、O&Mも、配当リターンも含めて長期的に継続して利益を生み出せる事業モデルを確立することが求められています。そんななか、一歩一歩積み重ね、新しいビジネスを切り拓く。最近は、つくづく自分がそういうことが好きな性分なんだと思います。10年か20年先、このプロジェクトを思い返したとき、きっと感慨深く思えるのかもしれません」

※1 O&M=Operation & Maintenance=オペレーション・メンテナンス。
※2 プロジェクト・ファイナンス=PFとは、特定事業の資産を担保とする融資方式。
他の方法としてコーポレート・ファイナンス(CF)等があるが、CFでは担保責任が企業自体に及ぶため、企業リスクが大きくなる。
※3 EPC=設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)を含む、プロジェクトの建設工事請負契約。
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※記事の内容は取材当時(2018年7月)のものです。
※敬称略

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